イインジャー      By  Blue - μ
  第2回

「うーーん…。」
菊太郎が、再び目を覚ました。
そこには、さっきから目が覚めるのを待っていた、
大河原院長がいた。
「おおっ、よかったよかった…このまま、
ショックで目を覚ましてくれんのじゃなかろうかと、
心配しとったんじゃ。」
どうやら、体のしびれは取れたようだった。
気を失って寝ている間に、体が動くようになったようだ。

手足が動く体もちゃんとうごく。
でも、なんか変なのである。
ものすごい違和感があるのである。
そのとき思い出した。
「はっそういえば、女に改造されたのでは…。」
さっき、手は麻痺していたし、
さらには気絶してしまったので、
確認することでできなかった自分の体…。
今しみじみと、確認できるのである。

おそるおそる…、
自分の胸、そして、お股に手をやった…。

「あーーーっある……なーーっない…。」
その声は、とてつもなくかわいい声であった。

「ちっくしょーーーう。何でこうなったんだよーーー。」
菊太郎が、怒った。
と、立ち上がろうと、ベッドの手すりをつかんだら、
そこだけ、鉄パイプが握りつぶされ、
さらに、立ち上がろうとすると、
そのままベッドが壊れてしまった。
ものすごく強い力である…。

「きっきくたろうくん…いいや、キーちゃん…、
いいこだから…何も触らないでくれんかのう。」
大河原院長が、あきれたように言った。
「キーちゃんは、興奮すると人の何10倍もの力が、
発揮されるんじゃ…。」

「えーーーーーっ。」
女に改造された。そのことだけでも、
びっくりしているのに…。
「なぜなんだーー。なぜ…、
なぜ、俺をこんな体に改造したーー。」
菊太郎が興奮して大河原院長に突っかかってきた。
しかし、そのかわいい声はすごみなぞまったくなかった。

「冷静に人の話は聞くもんじゃ。」
大河原院長は手に握った、
リモコンの、あるスイッチを押した。
すると、とたんに菊太郎の力が弱まったのである。

「こっこんちくしょう…リモコン操作………。」
菊太郎は自分の意思と無関係に、
その場にペタンと座り込まされてしまった。
どうやら、菊太郎の力をセーブするための、
リモコンだった。
「君だけじゃない…改造された仲間は、
あと4人いるんじゃ。」
菊太郎は、だまって聞くしかなかった。
というか、しゃべれないのである。
リモコンをかざされたら、自由が効かない体、
それがものすごく屈辱的だった。
「君たちには、
『敵』と戦ってもらわなくちゃいけないんじゃ。
だから、いろいろと検査して、
ヒーローと相性がよさそうなものから、
順に改造させてもらったんじゃ…。」
そういいながら、単純に病院にやってきた人の中から、
顔だけで選んだなどとは、
口が裂けてもいえない大河原院長であった。

「今までの、ヒーローをもしのぐ人選をさせてもらった。
正義のために是非戦ってほしいんじゃ。」

「このやろーう。何が正義だ!!
言いたいことはそれだけ…。」
菊太郎は、それでも大河原院長に向かおうとしたが、
リモコンで見る見る力が入らなくなっていく…。

話をまとめると、菊太郎だけでなく、
「ヒーローと相性がよさそうな人物」
つまりは、「ヒーローに似た顔をもった人物」を、
他にも改造してきたことになる。
もっとも、菊太郎には、どう説明したって、
納得してもらえるはずもないのは、明らかなのだが。

で、菊太郎の顔を、よくよく見ると、
ウ○トラマンコ○モスの、
ム○シ隊員によく似ているようだ。
やはり、『素質』はあったのだ…(あるんかい)。

なのに…次の疑問…なぜ、
女の子に『改造』されたのだろうか…。

「どうして、俺を女に改造した…。」
弱弱しい声で、菊太郎が声をだした。

「仕方なかったんだ…それはだな…。」
大河原院長が横を向きながら話をし始めた。

「5人をある程度改造し終わったあと、
ヒーロー協会に行ったんじゃ、
『男4人女1人で、ヒーローを構成します。』
とな。
と、登録の審査の第一声が、
男女雇用機会均等法が、どうとかとか言われて、
『5人のヒーローの場合、
女性が2人か、3人でないと登録は認められません。』
と突っぱねられたんじゃ。
しかし、確保している人材は男4人に女1人。
君を改造するしかなかったんじゃ。」

その一言を聞いて、菊太郎はますます怒った。
壊れたベッドのスチールパイプが、飴のように、
ぐにゃぐにゃ曲げられた。
大河原院長は、あわててリモコンを押した。
「そんなんで、納得いくもんかー。そもそも、
ヒーロー協会って、なんなんだよ。」

「これに入っておかないと、戦いの最中に、
建物とか壊したときに、
損害賠償しなきゃいけないのじゃ。
だからこそ、登録はしておかないとのう。
政府援助のヒーロー協会に加入しておけば、
壊れた建物は、災害と同様にみなされるわけじゃ…。」

「で…、どんな敵と戦うというんだよー。」

「それは…おいおいわかることじゃて…。」

「もういい…あんたの言葉に、
なっとくなんかするもんか…。
で、改造人間5人のうち男は4人。
さらに男のうち1人を女に改造しなくてはならなかった。
で、それが俺だと…。
ふざけんじゃねーーーーーー。
他の女、改造すればいいことだろーが。」

「『条件』にあうものが、いなかったんじゃー。」

「そうなんかよ。女より、俺が女らしかったんか??
そんなことねーだろーー。
なんでなんだよーー。
第一、俺の気持ちなんか、いっさい無視なんだな。
というか、かってに改造している時点で、
気持ちもへったくりもねーよな。
ひでーことしやがるな。
ちっくしょう…ばかやろーー。
このやろーーーーー。」

菊太郎はやっと体を動かして、かわいい声を絶叫させて、
大河原院長のもとへ詰め寄った。
リモコンは効いている筈なのに…、
これが執念というものだろうか。
しかし…再びリモコンのスイッチが、強く押されてしまった…。
菊太郎は動かなくなってしまったのだ。

「怒りのパワーは戦いのとき、是非とも必要なんじゃて。
今はとっといて、もらいたいもんじゃ。
しょうがないのう…。まっ、
洗脳前だから、しかたないのかのぅ…。」
院長が合図をすると、通路の奥から親衛隊が現れて、
菊太郎の体を研究室と、よぱれている別室へ運んでいった。

研究室には、さっきの話のとおり、4人の男女がいた。
やはり、ヒーローに、どこか似ている人物だった。
如月○ニー(キューティ○ニー)似の女、
南光○郎(仮面ラ○ダーブ○ック)似の男、
海○剛(アカレ○ジャー)似の男、
そして、本○猛(仮面ラ○ダー)似の男である。

そして、4人の行動はとても、奇異なものであった。
南光○郎に似た男と、海○剛に似た男は、
「おれたちがヒーローだ。おれたちがヒーローだ…。」
と、ぶつぶついいながら、
二人で、同じところをぐるぐる回っているのである。
如月○ニーに似た女は、
ヘッドホンをあてがわれて、怪しげな光を何か、
浴びせられていた。

そして、本○猛に似た男、なぜか、この人物だけ、
体がワイヤーロープや、
ものすごく太い、チェーンで、
ベッドにぐるぐる巻きにされているのである。

ときより、体を動かして、必死にもがいて、
「ぎゃーーーーーーーーーー。」と、
奇声をはっしているのだが、
チェーンとロープがきついのか、
どうにもならない様子である。

共通点といえば、いかにも、ヒーローだというような、
顔の持ち主であった。

が…大河原院長だけは、『最高のメンバー』と、
思っていた。そう、信じていた。
…本当にそうか??

これで、あの、にっくき『敵』と戦える。
「よっしゃー。」とこぶしに力が入った。

このヒーローのもとの5人を誘拐し、
改造したことは、何にも罪悪感がないようだ…。
こまった人である。

「おっほっほ。」
院長の妖しい声が、廊下にひびきわたった。

(なんなんだーーーーー。ここはーーーーーーーー。)
しゃべりたくても、言葉にならなかった。
菊太郎は、体を動かしたかったが、
リモコンが効いているのか、意識はあるものの、
手足を動かすこと、声を出すことが、
まったくできなかった。
目の前の、異様な光景を、
ただ、耐えてみるしかなかった。

ぐるぐる回っている二人、
ベッドで暴れている男、
ヘッドホンと、怪しい光の中にいる女、

自分も、この仲間になるというのか・・・。
絶句してしまった。

こんなやばそうなところで、
これからどうなるのだろう…。
不安の塊が、
どっかと、菊太郎の心をつぶすようであった。

数時間が過ぎた。
「諸君!!元気でいるかねぇ。」
禿頭の大河原院長がふたたびやってきて、声をかけた。
親衛隊は、相変わらず、
無言で後ろからついてきていた。
「総統閣下!!ばんざーーい。」
南光○郎に似た男と海○剛に似た男が、
元気よくあいさつした。

それにしても、…総統閣下なんだろうか…。

そして、如月○ニー似の女性が、
寝そべったまま、片手だけ挙げて「はーーい。」と、
ふざけたように、あいさつした。
本○猛似の男は、縛られていてなんにもできないが、
大河原院長の顔をみたら、
いっそう引きつった様子だった。

菊太郎は、こっこのやろーと…体を動かしたかったが、
まったく、体を動かすことができなかった。
相変わらず、リモコンが効いている様だ。
まったくどうしようもなかった。

大河原院長は、如月○ニー似の女性を見て、
腕を組んで、「うーーん。」と、うなっていた。

「『レッド』と、『ブラック』は、
ヒーロー洗脳ヘッドホンをつけたら、
何の抵抗もなく、すぐに心をささげてくれたんじゃがの。
『ピンク』は、どうなんじゃろなー…。」

しばらくすると、如月○ニー似の女性が、
ヘッドホンを自らはずし、
むっくと起き上がって、院長の横にやってきた。

女性は、大河原院長にすりすり、すりよっていった。
「あーーら…私は、もうすっかり、
総統閣下のいうとおりよ…。」
大河原院長の顔が少し赤くなった。
「ほほほほ。『ピンク』はだいじょうぶじゃのう。へへへへ。」
『ピンク』も、どうやら洗脳が効いたみたい…であった。

本○猛似の男がまた、バタバタ暴れだした。
違うリモコンが、本○猛似の男に向けられた。
しかしなんの反応も示さなかった。
「リモコンも、改良が必要なようじゃ。
こいつだけには、まったく効いておらんじゃないか。」
大河原院長は、とても不満そうであった。

「『グリーン』は、まったくダメじゃないか。
いつまでたっても、まったくだめじゃのぅ。
リモコンもダメ、
ヒーロー洗脳ヘッドホンもまるで効かない。
逃げ出すたんびに、鉄柵おろしたり、鉄網でからめたり、
捕まえるのもたいへんじゃ。
とうとう、こんなロープとチェーンを、
使わざるえんかったわい。
力だけはものすごいからのぅ。
ダメダメじゃ。
すばらしい体を与えてやったのに、なんちゅーざまじゃ。
こうなったら、脳みそ取り替えて、
違う人間のでもいれかえにゃならんのう…。」

「ギャーーーーーーーーーやめてぇぇーーーーー、
それだけはやめてぇぇぇ、
やめてぇぇちょうだぃぃぃぃぃーー。」
さらにジタバタする音が聞こえた。
それにしても、叫び声は、よくよく聞くと、
顔に似ても似つかない、いわゆる『オネェ言葉』だった。

その体のは、ワイヤーロープや、
ものすごく太い、チェーンで縛られているのだが、
それでもみしみしと、音をたてている。
とても通常の抵抗ではなかった。

大河原院長は、どこが持ってきたのか、
大きな注射を持っていた。
本○猛似の男は、
「やめてーーーーーーーーーーー。」と、
いよいよ、最後の抵抗をしたが、
お尻のやわらかそうな部分に、
大きな注射は、ぶすりと刺さり、
やがて…、本○猛似の男の抵抗が弱まり、
最後はまったく動かなくなった。
殺されたのだろうか???
いや、どうやら呼吸だけはしているようであった。
少しほっとした。
そして、その男に縛られていた、
ワイヤーロープや、
ものすごく太い、チェーンがはずされ、
今度は、菊太郎にガチャガチャ、
セットされていくのだった。

「キーちゃん…。リモコンは解除しておこう。
洗脳するときは、リモコン効かせたままというわけには、
いかんからのぅ。」

大河原院長が、リモコンを解除した。

「このやろう。こんなことして、
ただですむと思っているのか…。」
久しぶりに??
かわいらしい、罵声が響いた。
「絶対に、洗脳されないからな…。
そして、お前をやっつけるからなーー。」
体を必死に動かすが、
ベッドがギシギシ言うだけで、
まったく体の自由が効かなかった。
あの『怪力』をもってしても、どうしようもなかったのだ。

「ほほほほ。かわいい抵抗じゃて。
しかし、この『ヒーロー洗脳ヘッドホン』は、絶大じゃ。
きっと、わしの言うことを聞くようになるからの。
せいぜい、今の間、抵抗しておくことじゃ。
キーちゃん…おっと…、
おまえのカラーネームは、『イエロー』じゃった。
次からはきちんと『イエロー』と呼ぶことにするかのぅ。
しっかとヒーローになっておくれーー。」
と、言い残すと、大河原院長は、背中を向けた。

キーちゃんは、心の中にたまっていた、
言葉を、さらにいろいろぶつけたが、
その言葉に、振り返る様子はなかった。

眠っている本○猛似の男は、
親衛隊の手によって、
どうやら、違う部屋に移されるようだ。
大河原院長も、親衛隊に同行して去っていった。

…つづく…